皆さんこんにちは。塾長の米井(こめい)です。
これは、“なんでこんなミスするの?”の前に知ってほしいこと。“間違い=悪”にしてしまうと、子どもは挑戦できなくなる。正解より、“挑戦”することこそ価値がある。間違いは、未来の自分からのヒント。“間違えていい”が、子どもを変えるそんなお話です。
『どんどん間違えていい』と言われた日。
「うちの塾ではね、どんどん間違えていいんだよ」
最初にそう言われた時、颯太は“変な塾だな”と思った。
普通は逆じゃないのか。
学校でも家でも、
「ちゃんとやりなさい」
「ミスしないで」
「なんで間違えるの」
そう言われてきた。
だから颯太は、“間違えないこと”が勉強だと思っていた。
「じゃあ、この問題やってみようか」
先生が出した算数の問題を、颯太は慎重に解き始めた。
慎重に。
とにかく慎重に。
間違えないように。
怒られないように。
五分後。
答えは、空欄だった。
「……分かんない」
先生は笑った。
「いや、分かんなくていいんだよ」
「でも間違えたら…」
「うん、最高」
意味が分からなかった。
その時だった。
隣の席から、
「あーーー!!またやった!!」
という大声が聞こえた。
振り向くと、小学六年の女の子が机に突っ伏している。
「最悪ー!分数また逆にした!」
すると先生が拍手した。
「いいねえ!」
「どこが!?」
「今、“自分がどこで間違えるか”見えたじゃん」
女の子は一瞬止まった。
「……あ」
その日の帰り道。
颯太は妙にその言葉が残っていた。
“どこで間違えるかが見えた”
家に帰ると、母が言った。
「今日どうだった?」
「変な塾だった」
「え?」
「間違えたら褒められた」
母は笑った。
「いい塾じゃない」
「なんで?」
「お母さんね、料理でそれ思う」
「料理?」
「昔、カレーに砂糖入れすぎてね」
「えぇ…」
「でもその失敗で、“どれくらい入れたら甘くなるか”覚えたの」
颯太は少し考えた。
そういえばゲームもそうだ。
穴に落ちるから、次は飛べる。
ボスに負けるから、避け方を覚える。
翌週。
塾で先生が突然言った。
「今日は“まちがい大会”やります」
教室がざわつく。
「今から、一番“いい間違い”した人を優勝にします」
「えぇ!?」
問題が配られた。
みんな解き始める。
でも今日は空気が違った。
いつもなら静かな教室なのに、
「あ、やば!」
「それ違う!」
「うわそのミスする!?」
笑い声が混ざる。
すると突然、先生が言った。
「はい、優勝」
一人の男の子を指差した。
「え!?まだ終わってない!」
「いや、今のミス、めちゃくちゃ価値ある」
先生はノートをみんなに見せた。
途中式が、全部合っていた。
でも最後の最後で、+と−を逆にしていた。
「これね、“理解してない間違い”じゃない」
先生は言った。
「“急いだ時に起きるクセ”が見えた間違い」
教室が静かになる。
先生は続けた。
「勉強って、“できないところ探し”じゃないんだよ」
「え?」
「“自分のクセを見つけるゲーム”なんだ」
その瞬間、颯太はハッとした。
自分はずっと、
“正解するため”に勉強していた。
でもこの塾では、
“自分を知るため”に勉強している。
その夜。
颯太は学校のテストを見返した。
今までなら、バツを見るのが嫌だった。
でも今日は違う。
「あ」
同じところで何回も計算ミスしている。
しかも全部、“最後に急いだ時”だった。
次の日。
学校で小テストがあった。
颯太は最後に、一回深呼吸した。
そして見直した。
一問、符号ミスを見つけた。
帰宅後。
母に答案を見せる。
「おー!92点!」
颯太は少しだけ得意そうに言った。
「でもね」
「ん?」
「前より間違えたの、よかった」
「え?」
「だって、どこでミスるか分かったから」
母は少し驚いた顔をして、それから笑った。
「なんか、お兄ちゃんになったね」
数週間後。
塾に、新しい子が入ってきた。
問題を前にして、ずっと鉛筆が止まっている。
前の自分みたいだった。
先生がいつものように言う。
「間違えていいよー」
でもその子は小さく言った。
「……間違えるの怖い」
その時だった。
颯太がぽつりと言った。
「大丈夫」
「え?」
「間違えないと、自分のこと見えてこないから」
先生が少し笑った。
窓の外では、夕焼けが教室をオレンジ色にしていた。
帰り際。
先生が黒板を消しながら、何気なく言った。
「人ってさ、“正解”で変わることって、実は少ないんだよね」
「え?」
「“あ、ここで間違えるんだ、自分”って気づいた時に、一番変わる」
颯太は帰り道で思った。
転んだから、自転車に乗れた。
失敗したから、ゲームが上手くなった。
間違えたから、自分のクセが分かった。
もしかしたら。
“間違える”って、
ダメなことじゃなくて、
“まだ伸びる場所がありますよ”
っていう、脳からのお知らせなのかもしれない。
塾の入口には、小さな紙が貼ってある。
『どんどん間違えていい』
その下に、誰かが鉛筆で書き足していた。
『間違えた分だけ、自分が見えてくるから』
そのバツ印は、“才能の地図”かもしれない。
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